連載小説『はっきり言ってよ!?男の言い分、女の言い分?』第7話

青井由_はっきり言ってよ!vol.7_タイトル画

四回撮り直した写真をちょっとだけくすんだ色に加工したら、投稿画面で選択して、あとはテキストを入力するだけ。

「今日はオープンしたばかりの、六本木のカップケーキ屋さんに来たよ! #かわいい #おいしい #二人で食べるともっとおいしい」

思わせぶりなタグを連発したら、アップして終了!

タイムラインに、さっきのカップケーキの写真が表示されたのを確認して、私はスマホをテーブルに置いた。

これで今日の「リア充アピール」のノルマは達成ってことで、カップケーキを食べちゃおう! いただきまーす!

日本に初上陸だっていうこのカップケーキ屋さんには、友達も会社の同僚も、みんなまだ来たことがないはず。だから、みんなうらやましがって反応してくれるはずだよね?

ほら、さっそくスマホの画面にたくさんの通知が! どうやら「いいね」が一気に集まってるみたい。……どれどれ? 「いいね」のところには、友達のアカウント名がいっぱい並んでる。しかも、亜紀ちゃんからは「いいねー! 二人で食べてるってことは、彼とデート中なの?」ってコメントつきで。

「うふふー。幸せだよ!」

彼がいるとは書かず、何となくな「幸せアピール」をする――これが私のスタイル。だって、私には彼氏はいないし、今日だって実はデートでも何でもない。一人で食べてるだけだから。

なのに、SNSでは彼氏がいるようなリア充アピールをしてるなんて、寂しいよね? イタいよね? でも、やめられないんだよねー。みんなに「いいね」をつけてもらって、散々うらやましがられるのを体験しちゃうと、やめられなくなっちゃうんだよー!

青井由_はっきり言ってよ!vol.7_挿絵

「SNSを見る限り、先輩ってかなりのリア充ですよね」

そう言うのは、会社の後輩の塩崎くんだ。

「そ、そう? そうかな?」

うれしさ半分、嘘がバレないかヒヤヒヤ半分……っていう複雑な気持ちで、私は素っ気ない返事をした。今日は彼と一緒に外回りをしていて、ランチのためにカフェに入ったとたん、こんなことを言われるとは思わなかった。

塩崎くんはサラダのレタスを一枚ずつ食べながら、テーブルに置いたスマホと私を交互に見ている。

「彼氏と毎週のように話題のスポットに行き、彼氏から高価なブランドもののプレゼントをもらいまくっている人を、リア充と呼ばずに何と呼ぶんですか?」

「ま、まぁね。でもSNSでは、あくまで私の生活の一部を公開しているだけだからー! そんな日常から、リア充な感じを読み取れるかどうかは、読む人の勝手っていうかー!」

「確かにそうですね。たとえSNSの内容が嘘だったとしても、それをリア充として受け取るかどうかは、こっちの勝手ですから」

「そ、そうだよね! ははははー!」

私は精いっぱいに明るくふるまっていたけれど、心ではめちゃくちゃ焦りまくっていた。だって、塩崎くんが鋭いところをついてくるんだもん! いつも冷静な塩崎くんだけあって、女を見る目に容赦がないっていうか……。

とにかく話題を変えたい一心で、私はリゾットを頬張りながら、塩崎くんにいろんな話をした。そのおかげか、SNSの話はそれ以上出てくることはなかった。

この日の夜、お風呂から上がったとき、ぴろーんと音が響いた。それはSNSにリプライが届いた通知音。画面を見ると、「salt」というアカウント名と、三毛猫の写真のアイコンが表示されている。……これ、誰だろう? たぶんフォローしてない人だと思うんだけど……。

私はおそるおそる、通知の表示をタップした。すると、こんなメッセージが表示された。

「あなたっていつもリア充アピールしてるけど、それって誰のためにやってるの?」

ちょ、ちょっと! 全然知らない人から、そんなことを言われたくないんですけど! 腹が立って、すぐにでもブロックしてやろうかと思ったんだけど、イライラが収まらず、私はうっかり返信してしまった。

「もちろん、自分のためですよー。自分が楽しかったことを記録に残してるだけです~」

うん、我ながら無難で上品ないいリプライじゃない。……って思ってたら、またもや「salt」ってヤツから返信が来てしまった。

「ふーん。それなら、わざわざSNSで見せびらかさなくてもいいのでは? あなたには自分が『リア充』であることを、見せたい誰かがいるだけなんじゃないですか?」

……え?  私はそのメッセージを読み終わった瞬間、ドキンとして体を揺らし、スマホを落としそうになってしまった。だって……私がこうやってSNSでリア充アピールを始めたのは、大成と別れてからだもの。

私は大成が大好きで、大成も私を好きでいてくれてるって信じてたのに、会社の後輩の果歩ちゃんに略奪されて、それからずーっとショックで……。だから私は、リア充アピールを始めたんだった。それは私の心を癒すためでもあり、大成が私の投稿を見るのを期待して、大成と別れてからの私が幸せになってるって見せびらかしたかったから。

……わかってる。大成が私のアカウントを見ることなんて絶対にない。だって果歩ちゃんと来年には結婚するって噂が流れているくらいだもの。

私はSNSの検索欄に、大成のアカウント名を震える指で入力する。出てきたアカウントをタップして表示させたら、そこには果歩ちゃんとのツーショットの写真ばかりが並んでいた。私の嘘のリア充とは違って、本当のリア充の姿が、そこにはあった。

……あーあ。何だか一気に虚しくなってしまった。休みの日には、リア充アピールのために人気の店にわざわざ出かけて写真を撮ったり、「彼からのプレゼント」ってことにしたくて、必死でブランド品をネットオークションで落札してたことも、ぜーんぶ虚しい。

私は部屋に寝転がり、大きなため息をついた。すると、スマホからまたまたリプライ通知の音が鳴る。床に転がっていたスマホを取ると、「salt」からメッセージが届いていた。

「本当のリア充って、誰のためでもなく、自分のために時間を使える人のことを言うんですよ」

不思議だった。そのメッセージは文字であるはずなのに、声になって聞こえてくる。優しく私を慰めるような、男の人の声に。

「先輩、SNSやめたんですか?」

外回りの途中で、早めのランチを食べていたとき、向かいに座った塩崎くんが言った。

「うん。SNSに時間を使うのがもったいないなーって思ってね」

「もったいないって思うぐらい、SNSのために時間を割いてたんですか?」

「……まぁね」

塩崎くんの冷めた視線に耐え切れず、私はパスタを巻いていたフォークを置き、バッグの中からファイナンシャルプランナー試験の参考書を取り出した。

「だから、これまでSNSに使っていた時間を、資格を取るのに使おうと思ったの」

「いいですね。今の先輩のほうが、SNSにハマっていたときよりもリア充っぽいですよ」

「そう?」

あの日、「salt」からもらったリプライのおかげで、私は脱SNSを果たし、偽リア充からも卒業することができた。おかげで毎日充実してるから、「salt」に一言お礼でも言おうと思ったのに、あいつもアカウントを消したらしくって、連絡を取れなくなってしまっていた。

「リア充って本当は、恋人がいる人のことを言うじゃない?」

「そうですね」

「それなら、彼氏のいない私はリア充って言えないんだけど、今は毎日が充実してるから、リア充って言っていいのかなーって思ってるけどね」

「ふふ。先輩、知ってますか?」

塩崎くんがメガネを上げ、ニヤニヤしながら話し出す。

「本当のリア充って、誰のためでもなく、自分のために時間を使える人のことを言うんですよ」

……あれ? それって前に、誰かが言ってなかった? そうだ。この前、「salt」ってアカウントの人が言ってたんじゃない!

salt……ソルト……ソルトって塩のことだよね? 塩……塩崎……。

もしかして、塩崎くん? 塩崎くんが「salt」なの!?

「ちょ、ちょっと! 塩崎く……」

私が声を掛けようと顔を上げると、塩崎くんはスマホを構える。そしてシャッター音を鳴らしたあとで撮影した写真を確認したと思ったら、満足げに微笑んでいる。

「今度はこの充実した顔を、SNSのアイコンにするといいですよ」

第7話 ?終了?

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この記事の著者

青井 由(あおい よし)小説家・フリー編集者・ライター

小説家。 女性の本音とときめきに触れる小説とコラムを執筆している。 モットーは「Write like talking」。 複数のWebサイトで恋愛コラムも執筆中。
男心をつかむコツを探るべく、多くの20~30代男性にリサーチを行っている。

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