連載小説『はっきり言ってよ!?男の言い分、女の言い分?』第6話

青井由_はっきり言ってよ!vol.6_タイトル画

「これ、却下ね。考え直して」

課長から押し返された企画書を受け取ると、私はちょこんと頭を下げ、デスクに戻った。

あーあ、またダメだった……。

ダメ出しを食らったのは、これで三度目。二週間後に控えた『社員活用プロジェクト』の社内コンペのために企画書を作ってるんだけど、課長からはなかなかOKがもらえない。必死にアイデアを絞り出しても、あれもダメ、これもダメ。……一体どうしたらいいんだろう。

「さすがは佐々木くん! これはいい企画だなぁ。よし、これでいこう!」

さっき、私の企画書を苦々しい顔で見ていた課長が、バカみたいに明るい声を上げている。ちらっと視線を向けると、麻紀が課長の前で誇らしげに立っているのが見えた。

「課長、ありがとうござます。社内コンペには、この企画を提出させていただきます」

私とは同期入社で、一年目から「デキる女」として有名だった麻紀が、まっすぐな姿勢を崩さないままで、こっちに向かって歩いてきた。私が思わず体を縮めていると、頭上から彼女のトゲトゲした声が降ってきた。

「由香子はまだ、企画書ができないの?」

「う、うん……」

「ふーん。あなたって平凡な女だから、企画書もあなたに似た平凡なものなんじゃないの?」

思わずイラッとしたけれど、反論できない。実際に私は、麻紀に比べれば平凡だし、仕事もできない。彼女にとっては、私なんて踏みつけて当然の雑草みたいな存在なんだと思う。

私のしょぼくれた顔を見ると、麻紀は満足げにフン、と鼻で笑い、デスクに戻っていった。彼女が去ったことでほっとしていた私の耳に、今度は別の怖い声が響いた。

「おい、小島! しっかりしろよ!」

振り返ると、そこには先輩の田中さんがいた。小学校から大学まで野球をやっていたという体育会系の田中さんは、体も大きくて声も大きい。

「落ち込んでるヒマがあったら、早く次の企画を考えろよ! お前は佐々木ほどの実力はないんだから、数撃ちゃ当たるって感じでいかなきゃダメだろ!?」

「は、はい……」

私は怯えるように頷き、パソコンに向かうと、企画書のフォーマットを立ち上げた。

「ダメだ。全然アイデアが浮かばない……」

みんなが退社してしまい、私一人だけが残る部署の中で、私はキーボードの上に倒れ込んだ。

考えても考えても、企画のカケラも出てこない。脳ミソは限界で、もうカラカラに乾燥している。そんな頭を潤すように、私はペットボトルのお茶を飲んだ。喉を通り過ぎる冷たさを感じながら、私は田中さんの言葉を思い出していた。

おい、小島! しっかりしろよ!

「……わかってますよー」

私は一人でつぶやき、目を閉じた。

しっかりしなくちゃいけないことは、十分わかってる。だけど、全然アイデアが浮かばないんだもの。それに、これ以上ダメ出しをもらうのも怖いし……本当にどうすればいいの?

大きなため息をつき、ゆっくりと目を開ける。するとそのとき、誰もいないはずの部署のドアが開いた。……だ、誰? 誰が来たの?

ドアよりも高い背丈を折り曲げるようにしてやって来たのは、田中さんだった。

「た、田中さん! どうしたんですか、こんな時間に……」

「お前が残業してるって聞いたから、これ……差し入れ」

田中さんは私の席まで来ると、コンビニのビニール袋を差し出した。中には栄養ドリンクと、おにぎりが入っている。

「ありがとうございます」

私がお礼を言って受け取ると、田中さんは隣のデスクのイスに腰掛けた。そして、瞬きを何度も繰り返したあとで、私を見た。

「あのさ……今日は俺、言い過ぎたよな」

「何のことですか?」

「『しっかりしろ』って怒鳴ったり、お前に実力がないなんて言ったりさ……」

「い、いえ! 別に言い過ぎじゃないですよ! 田中さんの言うとおり、私は麻紀ほど実力はないし、もっとしっかりしなくちゃダメなんですから! ……ほんと、私ってしっかりしてないから……」

「い、いや、『しっかりしろ』っていうのは、そういう意味で言ったわけじゃなくてな……」

田中さんは、落ち着きなさげに、頭を掻いた。

「しっかりしようとしたって、一人じゃどうにもならないことってあるだろ? だからもっと人を頼っていいと思うんだよ。お前は一人でがんばりすぎてるんじゃないのか?」

「でも、誰に頼っていいかもわからないし……」

「それなら……俺に頼ればいいだろ」

「へ?」

思いも寄らない答えに、私はしゃっくりみたいな声を上げてしまった。それに反応して、田中さんが焦ったように話し出す。

「あ、あのな、言っておくけど、これは変な意味じゃないからな! 一人で考えるよりも、誰かと一緒に考えた方が、いいアイデアが浮かぶもんだろ? 確か、ことわざでそういうのがあったよな? 三人でもんじゃ焼きを食べるみたいな……」

「『三人寄れば文殊の知恵』ですね」

「そう! そういうことだよ! だから、ボツになった企画書を見せてみろよ!」

「は、はい」

私は引き出しの奥にしまい込んだ、NGになった企画書を田中さんに渡した。田中さんはそれをペラペラとめくりながら、太い眉毛をだんだんと吊り上げていく。

「……これ、企画自体は悪くないぞ。だけど、企画を実行するべき社員像がぼやけてるよなぁ」

「確かにそうですね」

そうだ。私の企画は企画そのものよりも、企画実行のときに、社員にどうやって働いてもらえばいいかが曖昧なんだ。よく考えたら、それが問題だったんじゃない!  やっぱり田中さんの言うとおり、誰かに頼らないと、こういう問題点って見つからないものなんだな……と思ったとき、ふとひらめいた。

「だったら、こういうのはどうです? さっき田中さんが言ったみたいに、人は誰かに頼っていいと思うんです。だから、社員みんなで頼り合って、助け合って企画を実行していくシステムを作るんです!」

「それはいいな。小さな努力を、一人一人がやれば、大きなことになる。誰かの大きな力じゃなく、みんなの小さな力が集まって、大きな力を生むのが会社ってもんだしな」

「そうです! さっそく、この企画を練り直します!」

「よし、やってみろ!」

この日、終電ギリギリの時間までかかりながらも、田中さんに手伝ってもらいながら、企画書を完成させることができた。

青井由_はっきり言ってよ!vol.6_挿絵

そして、社内コンペ当日。司会者のその言葉を聞いた瞬間、私の頭の中は真っ白になった。

「今回の『社員活用プロジェクト』では、営業二課の小島由香子さんのアイデアを採用することに決定しました」

……ほ、本当に? 私の企画が勝ったの!?  みんなが私を見て、拍手をしている。この状況を信じられないまま、私は震える足で立ち上がり、何度も頭を下げた。会場の後ろの方では、田中さんがウインク付きでサムアップしている。

コンペ終了後、部長や課長に一通り挨拶を済ませて、私は田中さんのもとへと駆け寄った。

「田中さん、今回は本当にありがとうございました!」

私が深々とお礼をすると、田中さんは大きく首を振った。

「礼には及ばねぇよ。がんばったのはお前だろ?」

「そんなことないです! 田中さんがいなかったら、ここまでのいい企画は作れてないですよ!」

「……そう思うんだったら、もっと俺に頼ってもいいんだぞ」

「はい! これからも先輩として、ビシバシとアドバイスしてくださいね!」

「い、いや、仕事だけじゃなくてもな、プライベートとかでも……その……」

……え? それってどういうこと?  私がキョトンとしているうちに、田中さんの顔がみるみるうちに赤くなっていく。

も、もしかして、これって……告白なのかな? そう思うと、私の心臓も痛いぐらいにドキドキし始めていた。

「と、とにかくだな! 今日はお祝いだ! うまいものでもおごってやるぞ!」

田中さんが照れ隠しのように上げた声に、私はこくんと頷いた。

「はい! ぜひ、二人きりで」

二人きり、という言葉に反応するように、田中さんは白い歯を見せて笑い、私の手をそっと握った。

第6話 ?終了?

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この記事の著者

青井 由(あおい よし)小説家・フリー編集者・ライター

小説家。 女性の本音とときめきに触れる小説とコラムを執筆している。 モットーは「Write like talking」。 複数のWebサイトで恋愛コラムも執筆中。
男心をつかむコツを探るべく、多くの20~30代男性にリサーチを行っている。

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