連載小説『はっきり言ってよ!?男の言い分、女の言い分?』第3話

青井由_はっきり言ってよ!vol.3_結婚したら男の子が欲しいな

女性を相手にする仕事をしていると、ふと気づくことがある。それは、結婚直前の女性の綺麗さだ。

肌がツルツルで、しかも余裕たっぷり。そんな女性を褒め称えると、決まって「今月、結婚するんです」なんて言葉が返ってくる。

まぁそうなんですか。おめでとうございます。お式はどちらで? それはご準備でお忙しいことでしょう――そんなビジネス会話をしていると、私も時生と絶対に結婚してやるっ……と、嫉妬とも焦りともつかない炎がメラメラと燃えてくる。

付き合って二年。時生は最高の彼氏だ。どんな話にでも付き合ってくれるし、いつも一緒にいてくれる。

「千夏も大変だなぁ」

今日だって仕事のグチを言ってしまった私を、時生は優しく慰めてくれた。

お互いに仕事が忙しくて、二週間ぶりのデート。せっかく広々とした公園の広場に来たんだから、もっと楽しい話をしたいんだけど、口を開けばグチとため息が出てくる。だけど時生は笑顔。綿菓子みたいな声で、私を撫でてくれる。

「美容部員って華やかそうだけど、結局は現場仕事だもんな。大変だと思うよ」

「ごめんね、グチっちゃって」

「別にいいよ。ストレスを溜め込んだら大変だよ」

時生はのんきな口調で話しながら、私の作ったサンドイッチを頬張っている。自分だってプログラマーで毎日忙しいのに、グチ一つこぼさない。睡眠不足みたいだから、今日みたいな休みの日は寝ていたいはずなのに、時間を作ってデートもしてくれる。

優しい。本当に優しい。……でもさ、そろそろ優しさ以外のものが欲しいんだよ! プロポーズっていう、二人の将来を確実にする「約束」が!  新しいイライラを発生させた私は、アボカドを挟んだサンドイッチを一口かじる。我ながらおいしくできているとは思うけど、苛立ちは収まらない。

それは周りが家族連ればかりのせいかもしれない。原っぱを走ったり転がったりして、遊んでいる子どもたちを優しげに見守るお父さんとお母さんたち。それを見ていたら、いつかは私も時生とあんな感じになりたいなーって思うんだけど……。

目の前を走っていた男の子が転んで泣いている。そこにお母さんが駆け寄ってきた。

「いいなぁ、子どもって。俺は結婚したら男の子が欲しいな。千夏はどう?」

「えっ?」

私は思わず瞬きを繰り返して、時生を見た。今、「結婚したら」って言わなかった? で、「男の子が欲しい」って……。

これってもしかして、プロポーズ!? にっこり笑う時生に、私は素早く言い返す。

「わ、私も男の子がいいかな?」

「だよねー。でも、千夏に似た女の子もいいなぁ。すっごく元気よかったりして」

はははは。時生の春風みたいな笑い声が、子どもたちのはしゃぐ声に混じって、私に触れた。

子どもって、私たち二人の子どもってことだよね? そうだよね? 子どもができるってことは、結婚するってことで……。

つまりこれは、時生が私との結婚を考えてるってこと? そうとなったら……これは早いうちに準備しないと!

私は苛立ちがシューッと消火されていくのを感じながら、残ったサンドイッチを食べ切ってしまった。

次の日、私はさっそく『エクピィ』を買った。結婚に関する情報がたんまりと詰まった、辞書みたいな分厚さで有名なその雑誌を、最初から最後まで熟読した。で、わかったことは一つ。

「結婚式を考えているなら、まずは式場選びから」

巻頭を飾るキャッチコピーが、私のハートをズキューンと撃ち抜いた。そうだよね! プロポーズされたも同然なんだから、さっさと式場を決めないと!

私は『エクピィ』に載っている式場の中で、気に入ったものをいくつかピックアップした。そして時生に連絡。

「今度のデートは、表参道で待ち合わせしない?」

有名な結婚式場の「アルベルト表参道」の前で待ち合わせることを約束して、私は『エクピィ』を閉じた。ウェディングドレスを着ている表紙のモデルさんと同じ笑みを浮かべながら。

デートの日、待ち合わせ場所にやってきた時生は、私が胸に抱えた『エクピィ』を見て、眉間にぐにゃっとシワを寄せた。

「それ、どうしたの?」

「買ったよ」

「……何に使うの?」

「結婚式のことを決めるためだよ」

「け、結婚式ぃ!?」

時生は大声を上げて、口をあんぐりと開けていた。自分からプロポーズみたいなことを言っておいて、何を驚いているんだろう?  私はペラペラと雑誌をめくり、付箋をつけておいたページを開く。

「今日は一日、結婚式場巡りをしようね。まずはこのアルベルト表参道の式場をチェックしに行こうよ!」

「ちょ、ちょっと待って!」

大きな回転ドアの中に入ろうとしたら、時生に手を引っ張られ、ブレーキをかけられてしまう。

「どうして式場選びなんてする必要があるんだよ!」

「だって結婚するんでしょ? だったら早く式場を決めないと!」

「結婚!? だ、誰が?」

「決まってるじゃない。私と時生だよ」

鼻息が荒く宣言した私の前で、時生は急にモジモジし始めた。

「あれ? もしかして、照れてるの?」

「照れてなんかいないよ! 一体何のことなのか、さっぱり意味がわからないんだよ!」

「何言ってんの? 子どもがどうのって言ったのは、時生の方でしょ?」

「子どもぉ? だからそれって何のことだよ!」

「この前のデートで、子どもが欲しいって話をしたじゃない。時生は男の子がいいって! あれってプロポーズでしょ? 私と結婚して、子どもが欲しいんじゃないの?」

そのとき、時生はやっと意味を理解したようで、がっくりと肩を落とした。

「俺はあのとき、プロポーズのつもりで言ったんじゃないんだけど……」

「ええっ!?」

私は目玉が落ちそうなほど、目を開いた。

「で、でも、時生は子どもが欲しいって……」

「あれは漠然と将来のことを言っただけだからさぁ……」

な、何なのそれ……。私の全身から一気に力が抜けていく。手から『エクピィ』が滑り落ちて、ゴン、と大きな音を立てた。

すっごいショック。私一人で空回りしてたこともそうだけど、時生にまだ結婚する気がなかったことで、ショックが二トン分ぐらいに積み重なってしまう。

でもそれを上回るほどに、私の中では怒りも溜まりに溜まっていた。

「……だいたい、あんたがさっさとプロポーズしないのが悪いのよ!」

表参道を行き交う人たちの視線が集まる中で、私は時生の胸ぐらを掴んだ。

「私が今年、いくつになると思ってんの!?」

「さ、三一だよね?」

「そう! 三十過ぎたんだから、さっさと結婚したいの!」

「でも、俺はそんなに給料高くないし……」

「共働きだったら大丈夫でしょ!? あんた、私と結婚したくないの?」

「い、いや……結婚するなら千夏がいいとは思うけど、踏ん切りがつかないっていうか……」

時生の視線が宙に躍り出す。このフニャ男のプロポーズを、私はさらに待たなきゃいけないの? いや、待っていたら、私はおばさんどころかおばあさんになってしまう。

だったら他の男に乗りかえるのもアリなんだけど、残念なことに私はこのフニャ男が好きなのだ。フニャフニャの中にある優しさが好きなのだから、仕方ない。

それなら、待たなきゃいいんじゃない?――そう思った私は、時生から手を離した。

「そうだ! 私からすればいいのよね!」

「な、何を?」

「プロポーズに決まってるでしょ!」

私は呼吸を整えると、時生の細い体を見据えて、頭を下げた。

「お願いです。私と結婚してください。時生のフニャフニャで優柔不断なところを好きになれるのなんて、私しかいないんだから!」

「は、はい。よろしくお願いします」

「へ?」

あまりにもあっさりと決まった結婚。その場に崩れ落ちそうになったけど、必死で堪える。

ああ、最初からこうしておけばよかったんだ――そんな後悔が頭をよぎるけど、これはこれでいいのかもしれない。よく考えたら、付き合い始めたときも私から時生に告白したんだから、これが私たちの正しい姿なのかもね。

「じゃあ……式場の見学に行ってみようか?」

照れながら差し出された時生の手を握る。その手はフニャフニャなんかしてなくて、がっちりした男の人の手だった。

青井由_はっきり言ってよ!vol.3_挿絵

第3話 ?終了?

青井由_はっきり言ってよ!_フッター画像

この記事の著者

青井 由(あおい よし)小説家・フリー編集者・ライター

小説家。 女性の本音とときめきに触れる小説とコラムを執筆している。 モットーは「Write like talking」。 複数のWebサイトで恋愛コラムも執筆中。
男心をつかむコツを探るべく、多くの20~30代男性にリサーチを行っている。

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