連載小説『はっきり言ってよ!? 男の言い分、女の言い分?』第11話

ちっちゃな子猫に、あのまん丸な目で見上げられたら、誰だって「かわいい~」ってキュンキュンしちゃうでしょ?

だから私も、いつだって上目遣いにこだわってる。

大きな目で、まばたきをちょっとだけゆっくりにして、じーっと見つめて、そして適度にボディタッチ。これでどんな男の人でもイケるんだから!

「梨々香ちゃん、今度の週末に映画でも行かない?」

ほら来た、デートのお誘いのLINE!

今日は隣の部署の高見さんかぁ。昨日は営業一課の山本さんと穂村さん、その前は人事部の後藤さんからも誘われたんだよねー。

でも、私はこんな誘いに乗るような、チョロい女じゃないですから!

イマイチなメンズはバッサリと切り捨てることにしてるんだー。

それで傷ついたり、私を恨んでるメンズもいるらしいけど、そんなの知ったことじゃない。私の本命メンズになれない、自分のレベルの低さを恨むべきだよねー。

「……ねぇ、梨々香ちゃん。男性社員を傷つけるのは、もうやめたら?」

高見さんへの断りのメッセージを送り終えて、顔を上げると、そこには加奈ちゃんがいた。一重の目を伏せた、メザイクもまつ毛エクステもない、地味な顔。

いくら同期入社とはいえ、地味女が私に説教するなんて……バカじゃないの?

あんたと私じゃ、女としてのレベルが違うんですけどー!

私は長いまつ毛で加奈ちゃんを追い払うように、何度もまばたきした。

「私は傷つけてるつもりなんてないけど? 私は男性からのお誘いを、断ってるだけですけどー?」

「でも、梨々香ちゃんが思わせぶりな態度をとるのも、悪いような気がするんだけど……」

「へー。つまり加奈ちゃんは、全部私のせいだって言いたいんだー」

「そういうわけじゃないけど……」

「だったら、どうでもよくない? それに私、加奈ちゃんみたいな非モテちゃんに、あれこれ言われたくないんですけどー」

加奈ちゃんは、地味な表情をさらに地味にさせて、俯いてしまった。

やべ、ちょっと言い過ぎたかなーって思ったけど、加奈ちゃんはすぐに顔を上げて、ニッコリと笑った。

「そ、そうだよね。梨々香ちゃんは小悪魔ちゃんって感じで、モテるんだもんね! 私みたいなモテない人間が、口出しする必要なんてないよね!」

……ふん。わかればいいのよ、わかればね。

 

 

「梨々香ちゃん、これ頼めるかな?」

「はい!」

今回、プロジェクトチームで一緒になった大和先輩に仕事を頼まれて、仕事嫌いな私にしては珍しく、楽しく仕事をしていたんだ。

だって大和先輩は、二〇代なのにプロジェクトリーダーを任されてるし、こんなカッコいい人はそんなにいないし……。こんな人なら、狙わずにはいられないじゃない?

だったらさっそく、いつもの小悪魔テクニックを使うしかない!

「大和先輩、できました!」

「ありがとう」

先輩にプレゼン資料を渡すときには上目遣いで。まばたきをゆっくりにして、じーっと見つめる。そして、さりげなくボディタッチ。これで落ちない男なんていないんだから!

でも、大和先輩は資料を受け取って、そのままパソコンの画面に視線を移しちゃってる。反応なし。私がこうやると、どんな男性社員も、照れたりニヤついたりするのにーっ!

どうして大和先輩は無反応なわけ? おかしくない? うーん……もしかして、ボディタッチが足りないとか?

だったら、ガンガンいっちゃう? ……ってことで、私はことあるごとに、先輩の手や腕、時には背中にもタッチして、反応を見てたけど……あれれれれ? ぜーんぜん反応しないんですけどー!

もうこうなったら、最後の手だ!

私は先輩の腕に、わざと胸をむぎゅーっと押し付けてみた。こんなこと、ほかの男性社員にはしたことないんだからね!

私の胸の谷間に挟まった先輩の腕が、一瞬動きを止めて、そしてピクッと動いたのがわかった。

キターっ! とうとう先輩が反応した! これで勝ったも同然!

思わずガッツポーズしそうになった私に、先輩が顔を向ける。私はそれに応えようと、いつもの上目遣いの「小悪魔スマイル」をしたんだけど……なんか違う。

だって先輩ったら、めちゃくちゃ怖い顔をしてるんだもん……。

「いつもこういうことをしてるのか?」

鬼みたいな顔をした先輩が、鬼みたいな声で、私に言った。

「な、なんのことですかぁ~」

私はもう一度、先輩の腕に胸を押し付けた。すると先輩は、ものすごい勢いで私を振り払った。

「いつもこうやって、体をくっつけてくるのかって訊いてるんだ!」

「い、いえ、あの……」

「どうせほかの男性社員にも、こんなことをしてたんだろう!」

「い、いえ、ここまでのことは……」

「黙れ! 君がしてきたことは、全部聞いてるんだからな! ここ最近、男性社員がみんな君に惑わされているようだから、心配していたんだけど……まさか僕にまで迫ってくるとはな! 会社を何だと思っているんだ!」 「な、何だって言われましても……」

「会社は君の逆ナンの場じゃないんだぞ! クビになりたくなければ、もうこんなことは止めるんだな!」

先輩の怒りのこもった声で、私の体がブルブルと震える。おかげで私は、小さな声で「……はい」と返事をすることしかできなかった。

「……それにしても助かったよ。君のアドバイスの通りだった」

先輩の声が急にやさしくなったと思ったら、先輩は私に背中を向けて、前へと視線を向けていた。その先には……なぜか加奈ちゃんがいる。

いつものように地味でブスな加奈ちゃんが、先輩の言葉に、ほっぺを赤くしてるんだけど……どういうこと?

「加奈ちゃんから、梨々香ちゃんが男性社員にひどいことをしていると教えてもらわなければ、僕も気づけなかったよ。ありがとう」

「いえ。私はただ、この部署のみなさんが仕事がしやすいように、梨々香ちゃんの行動をよく見ていてほしいと、先輩にお願いしただけですから」

つまりそれって……この地味ブス女が、私のことを先輩にチクったってこと? 私がこれまでやってきたことや、私の小悪魔テクニックも、全部バラしたの!?

……ふざけんな、このブス! 地味顔!  私は目いっぱいの力をこめて、加奈ちゃんを睨んだ。すると加奈ちゃんは、一重の目をさらに細めて、こっちを見た。

「モテるのだけが自慢の、バカ女!」

そう言っているような勝ち誇った視線が、私の頭に突き刺さる。それは、「かいしんのいちげき」ってやつで、おかげで私は瀕死状態。さらに、先輩が加奈ちゃんの肩に両手を置いた姿が、とどめとしてグサッと私の心に刺さってしまった。

「加奈ちゃん、これからも僕のサポートを頼むよ」

「はい!」

先輩と一緒に立ち去っていく加奈ちゃんのおしりに、黒くうごめくものが見える。それはしっぽだった。先端が矢印みたいになった、悪魔のしっぽ。私のおしりに生えている小悪魔用の小さなものじゃなく、ものすごーく大きなやつ。

もしかしたら……ほんとうの悪魔って、ああいう女のことを言うのかもね。だって、地味でブスなくせに、私をめちゃくちゃにするような、とんでもない女じゃん! 私みたいなか弱い女を、簡単に追い詰めるような女じゃん!

……はいはい、わかってますよ。私はしょせん小悪魔です。あんな大悪魔にはかなわないってことでしょ!

でも、あの女にやられっぱなしでいるのは、正直ムカつく。だったら、私も小悪魔から大悪魔にレベルアップするしかないってこと? でも、それにはどうしたらいいんだろう?

「梨々香ちゃん、大丈夫?」

声をかけてくれたのは、同じ部署の武田くんだった。この前、私にフラれたばかりの武田くんは、壁にグタッともたれていた私を心配そうに見ている。

「大丈夫だよ。気づかってくれてありがとう、武田くん」

いつもだったら、上目遣いで「ありがと♪」なんて言うところだけど、このときの私は、彼を真正面から見つめていた。

「い、いや、別に礼を言われるほどでは……」

私の体を起こそうと、差しのべる武田くんの手を無視して、私は自力で壁から離れた。そして、ゆっくりと前へと歩き出す。おしりからは、小悪魔のときとは違う、もっと大きなしっぽを生やしながら。

第11話 〜終了〜

この記事の著者

青井 由(あおい よし)小説家・フリー編集者・ライター

小説家。 女性の本音とときめきに触れる小説とコラムを執筆している。 モットーは「Write like talking」。 複数のWebサイトで恋愛コラムも執筆中。
男心をつかむコツを探るべく、多くの20~30代男性にリサーチを行っている。

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