連載小説『はっきり言ってよ!?男の言い分、女の言い分?』第10話

青井由_はっきり言ってよ!vol.10_無口な方なんですね

「もう私もアラフォーでしょ? 誕生日がうれしくないわけはないんだけど、プレゼントによろこぶ年齢でもないのよ。でもいただくわ。あなたたちの気持ちを無駄にはしたくはないもの。……で、これは何? フットマッサージャー? あら、私って足が疲れてるように見えるのかしら? でも私、むくみもないし、毎日ジョギングしてるから筋肉だってビシーッときまってるわよ? でも、このプレゼントはちゃんとありがたーくいただくわよ。だってこれがあなたたちの心づかいなんだから」

ここまで話すのに約七秒。私が言葉を止めると、周りにいる部署の仲間たちの表情が、七秒前よりも沈んでいるように見えた。

「貴子さんって、口を開かなきゃ美人なんですけどね」

部署を代表して、私にプレゼントを渡してくれた後輩の亜美ちゃんが、ため息交じりでつぶやく。しかも他のみんなまで、納得したように頷いている。

……ムカつくんだけど!

「亜美ちゃん、あなた私にしゃべるなって命令してるの? そんなの百年早いわよ! それにね、私が話し過ぎるんじゃなくって、日本人が言いたいことを言わな過ぎるのよ! もっと自分の意見を主張しないと、グローバリズムでは生き残れないわよ!」

ここまで話すのに約四秒。その間に、みんなの表情がもっとダルそうなものに変わっていた。

「それは、みんながあんたのおしゃべりに呆れたのよ。そこそこの美人なのに、そのおしゃべりが災いして、歴代の彼氏たちにも逃げられたんでしょ? 私としてはさっさと結婚して、安心させてほしいんだけどねぇ……。はい、これ」

リビングのソファに沈み込んでいた帰宅直後の私に、キッチンからやって来た母がA4サイズの薄いアルバムを差し出した。

「何よ、これ」

「お見合い写真。久美子おばさんがね、知り合いにあんたと同い年の男性がいるからお見合いしてみたらって、送ってくれたの」

「私はお見合いなんてしません!」

「いいえ、してちょうだい。これは私からの誕生日プレゼントよ。三七歳で独身、彼氏ナシの娘へのね」

得意のマシンガントークで三〇秒ぐらい言い返してやりたいところだったけど、「三七歳で独身、彼氏ナシの娘」というパワーワードに圧倒されて、何の言葉も出てこない。

「まずは写真を見てごらんなさいよ。結構な男前よ」

……うん、確かにカッコいい。外資系のうちの会社にも、こんなイケメンはいない。

「永田さんっておっしゃってね、証券会社に勤めてるエリートなんですって。久美子おばさんの顔を立てるつもりで、今週末に会うだけ会ってちょうだい」

「それは命令?」

「命令よ。返事は?」

「……はーい」

気だるさを全開にして、返事をした。そしてもう一度、まじまじとお見合い写真を見る。

さわやかインテリイケメン。そんな感じの男性だ。でも、こんなハイスペックな男性が、どうして結婚してなかったんだろう?

そしてお見合い当日。家を出るときに、母に念を押されてしまった。

「今日のお見合いの間は、口を閉じて黙ってなさいよ! お相手の話を聞いて頷いていれば、美人に見えるから!」

「はいはい!」

生返事で家を出て、待ち合わせ場所であるホテルへと向かった。一階のラウンジにある窓際の席には、あの写真に写っていた人らしき男性が座っている。

「あの、永田様でしょうか?」

歩み寄って声を掛けると、その人はすぐに立ち上がり、ニコッと笑った。

「はい、末松貴子さんですね。はじめまして、永田祐希と申します」

立ち姿もファッションもあいさつの仕方も、すべてがスタイリッシュだ。「何か注文しますか?」と、席に着いた私にメニューを差し出す手の先にまで、神経が行き届いている。

そしてやっぱり、かなりのイケメンだ。どうしてこんな人が、いままで結婚できなかったのかが不思議で仕方ない。

「失礼ですが……どうしてあなたのような美しい女性が、いままで結婚されてなかったんですか?」

永田さんからのいきなりの質問に、私はすぐに返事ができなかった。まさか、口が災いして男に逃げられまくったとは言えない。どう言い訳するべきか……と考えていたら、永田さんが私の返事を待たずに話し出した。

「いえ、おっしゃらなくてもわかります。きっとあなたのような才色兼備の女性に合う男性がいなかったのでしょう。実は僕もそうでしてね! 僕はT大を首席で卒業して、本当は財務官僚になる道もあったのですが、あえて証券会社で金融の道を歩むことを決めたのです。なぜかわかりますか? そう! それは僕のような優秀な人間が、一国の財政だけにかかわるなんてもったいないと感じたからなんです! だから僕は、現在の会社に就職後、アメリカ支店への栄転を果たし、MBAを取得し、世界を股にかけてビジネスを続けているのです!」

ここまで話すのに約八秒。す、すごい……。こんなに話に入る隙を与えない人って、初めて見た気がする。

「僕は現在、大口の顧客の取引にかかわっています。(中略)ヘタをすると、日本の国家予算以上の金額をあつかうこともある。その金額をあつかうプレッシャーに耐え切れず、辞めていく社員も多いのですが、僕はそんなことを感じません! なぜなら……(以下略)」

ここまで約一分四六秒。イケメンの美しい唇は休むことなく動き続け、私が頭の中で略しても略しても、自慢話ばかりを放ち続ける。仕事、年収、最近買った高級車、腕時計のコレクション……。永田さんの話が私の左耳から入っても、頭には届かず、右耳からドボドボとこぼれ落ちていった。

それでも私は母の言いつけを守り、一切口を開かず、彼の話にただただ頷き続けた。

彼が話し始めて、三〇分は過ぎていたと思う。永田さんはやっとのことで口を止め、私をじーっと見た。

「貴子さんって、無口な方なんですね」

「そ、そうですか?」

「だって貴子さんは、さっきから一言も話してないじゃないですか。僕ばっかり話していますよね? 会話では、お互いに言葉のキャッチボールしなくては……」

まるで私が話さないのが悪いかのような口ぶり。このとき、私の中で何かが切れる「ブチッ」という音が響いた。それと同時に、喉の奥に無理矢理引っ込めておいた言葉の数々が、濁流のように口から溢れ出す。

青井由_はっきり言ってよ!vol.10_挿絵

「何を言っているの? あなたがしゃべり続けるから、私が話に入り込めないだけでしょ? まるで自分が世界の中心にいるみたいな話をして、恥ずかしくないのかしら? 言っておきますけど、私だって仕事はデキますから! いまの勤務先では、三五ヶ月連続で売り上げトップですし、来年は課長になる予定ですし、年収はあなたよりも高いわよ! それにT大を首席で卒業っておっしゃってたけど、グローバリズムでは学歴なんて無用! これからは実力で勝負する時代に入るというのに、ナンセンスだわ!」

ここまで話すのに約六秒。いつもより早口でまくしたてたら、永田さんの口がポカーンと開いていた。

……マズい!

「口を閉じて黙ってる」って約束だったのに、やっちゃった……。急いで口を閉じたけど、いまさらもう遅いだろう。

それに、私は気づいてしまった。永田さんがいままで結婚しなかった――というか、できなかった理由に。このマシンガントークのせいで、女性が逃げてしまったんじゃないだろうか。……私と同じように。

つまり私と永田さんは、似た者同士なんだ――そう思うと、おかしさがこみ上げてくる。さっきまでのスマートな雰囲気はふっ飛び、ハニワのような顔になっている永田さんを見ながら、私は背筋を正した。

「永田さんは、さっきおっしゃいましたよね。『会話では、お互いに言葉のキャッチボールしなくては』って」

「ええ、まぁ」

「だったら、いまから言葉のキャッチボールをしませんか? 私が質問したことに、永田さんが答えて、永田さんが質問したことに私が答える。その代わり……答える時間は一〇秒以内ってことで!」

私はバッグからスマホを取り出し、タイマー画面を表示させ、「一〇秒」にセットする。

「そして……マシンガントークは禁止です。私も、永田さんも」

「わかりました」

永田さんが照れたように笑い、私も笑う。似た者同士は、もしかしたらうまくいくのかもしれない。

第10話 ?終了?

青井由_はっきり言ってよ!_フッター画像

この記事の著者

青井 由(あおい よし)小説家・フリー編集者・ライター

小説家。 女性の本音とときめきに触れる小説とコラムを執筆している。 モットーは「Write like talking」。 複数のWebサイトで恋愛コラムも執筆中。
男心をつかむコツを探るべく、多くの20~30代男性にリサーチを行っている。

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