連載小説『はっきり言ってよ!?男の言い分、女の言い分?』第1話

青井由_はっきり言ってよ!vol.1_がんばってるね「佐々木くん、がんばってるね」

高野課長にそう言われたとき、私は有頂天になった。そして「当然じゃない?」とも思った。だって最近、部署内で採用されるプロジェクトのほとんどが、私の企画によるものなんだから。

「課長、お褒めの言葉、ありがとうございます。明後日の『社員活用プロジェクト』の社内コンペも、勝ち取れるようにがんばります」

「そうか。入社五年目なのに多くの実績を残しているし、がんばり過ぎるぐらいがんばっているな」

「課長、それ以上の褒め言葉は無用です」

私はプレゼン資料をデスクに置いて立ち上がり、高野課長に深々と頭を下げた。

「続きのお褒めの言葉は、今度のコンペでの勝利後に頂戴したいと思います」

「そうか……」

課長ったら、困ったような顔をしている。きっと私のパワフルさに圧倒されてるのだろう。

そりゃそうでしょ。私は普通の女子社員とはレベルが違うんだから。たとえば、隣のデスクにいる同期の由香子とは、一緒にされたくない。

「小島さん! 何回言ったらわかるんだよ! ここ、ミスってるって!」

「すみません! 今すぐ直します」

あーあ。由香子ったら、いつものように先輩に注意されてる。顔はかわいいけど、あんなに仕事ができないなら、ライバルにもなりゃしない。

今度の社内コンペでは、由香子もプレゼンをするらしいけど、確実に落選でしょうね。コンペの資料さえも、まだできあがってないらしいし。

青井由_はっきり言ってよ!vol.1_挿絵

そして、コンペの日がやってきた。私は完璧な資料をもとにした、完璧過ぎるプレゼンをすることができた。ちなみに私のアイデアは、優秀な社員だけを集めた「エリートチーム」が社内を活性化していく、というものだ。

私のプレゼンに聞き惚れる重役たちを見て、「これはイケる!」と確信したのに……これってどういうことなの!? 誰か説明しなさいよ!

「今回の『社員活用プロジェクト』では、営業二課の小島由香子さんのアイデアを採用することに決定しました」

専務のその言葉を、私はすぐには信じられなかった。なんで由香子が!?

由香子のアイデアは私のものと正反対で、能力の有無にかかわらず、すべての社員が会社の運営にかかわることによる、社内の活性化の提案だった。私のアイデアであれば、プロジェクトの執行期間は三ヶ月。由香子のは倍の半年もかかる予定だし、全然能率的じゃないのに……どうして?

「では、小島さん。こちらにどうぞ」

呼ばれた由香子は、モジモジしながら前へと移動した。

……ふん。そんな態度もムカつく。私に勝ったんだから、もっと堂々とうれしそうにしたらいいのに! イヤミったらしい!

「小島さん、おめでとう。君のアイデアは、全社員のやる気を引き出してくれるだろう」

「ありがとうございます。この結果は、協力してくださったみなさんのおかげだと思っています」

由香子は部署の人たちの顔を見回すと、最後にはなぜか私を見て、にっこりと笑った。負けた私に対するイヤミだろうか? 本当にムカつく!

コンペが終了し、イライラしたままで会場を飛び出すと、廊下の途中で高野課長の姿を見つけた。

コンペに落選したことを詫びようとしたら、部署の男性社員数人も一緒にいるのが見えた。嫌な雰囲気を感じて、私は咄嗟に近くの柱の陰に隠れた。

「佐々木さん、ざまぁ見ろって感じでしたね」

私の名前を出したのは、後輩の田口くんだ。なにが「ざまぁ見ろ」だ! 仕事のできないヤツに、グダグダ言われる筋合いはない!

「まぁまぁ。そう言うなよ、田口」

さすがは高野課長。田口をたしなめている。私のがんばりを認めてくれている人だけはある、と思った次の瞬間、私は耳を疑った。

「佐々木くんはがんばり過ぎて、周りが見えていないんだよ。他の社員を引き立てようという気持ちもない。今回のコンペのアイデアでも、結果を出せない社員を切り捨てていた」

……え? 聞き間違いじゃないよね? 高野課長って、私のがんばりを評価してたんじゃないの!? それなら、一昨日の「がんばってるね」って言葉はなんだったの? あれって、褒めてくれたんじゃなかったの?

「ですよねー。佐々木さんはいつもピリピリしてるからキツいっすよ」

「がんばってる女って、女として見れないですよ。いくら仕事ができても、あれじゃあねぇ……」

「反対に、小島さんはミスも多いけど、こっちの気持ちを考えてくれるので、仕事がやりやすいですよね。今日のプレゼンもよかったなぁ」

男性社員たちの言葉がトゲになって、私にグサグサと突き刺さる。そしてとどめは、やはり高野課長の一言だった。

「これで佐々木くんが、猪突猛進ながんばりは止めて、仕事は自分一人でやるものじゃないと気づいてくれればいいが」

高野課長たちは口々に私の悪口を言いながら、部署へと足を進めていった。私だってここから早く立ち去りたいのに、足が動かない。

私がこれまでがんばってきたことは、間違いだったのだろうか? だって会社は、仕事をがんばる場所でしょ? がんばることって、そんなにいけないことなのだろうか?  急に悲しくなって、鼻の奥がツーンとしてきた。そんなとき、由香子が私に向かって駆け寄ってきた。

「麻紀ちゃん、お疲れさま。私、麻紀ちゃんにお礼が言いたくって」

「お礼? なんのこと?」

「私がコンペに出したアイデアを作れたのは、麻紀ちゃんのおかげだから」

「なに言ってんの? あんたのアイデアのどこに、私が関係してるって言うのよ!」

「だって、麻紀ちゃんていつもがんばってるじゃない? そんな麻紀ちゃんを見てると、『私もがんばらなくちゃ!』って思えたから、必死にがんばって、あのアイデアを形にすることができたんだよ」

……はぁ? 「がんばってる」なんて、こんな無能な女に言われてもうれしくない。それに、さっきの高野課長の発言で、「がんばってるね」が褒め言葉ではなかったことが判明したんだから。

「私のがんばりは、あんたが思ってるようなものじゃないの。結局は無駄だったの! みんなにウザがられてただけ!」

あーヤバい。自分で言葉にしたら、余計に悲しくなってしまった。こらえきれずに涙を流す私を見て、由香子は不思議そうに首を傾げた。

「でも、私から見たら、麻紀ちゃんのがんばりはすごいと思ったよ。男の人なら、がむしゃら過ぎるって思うかもしれないけど……」

確かに、さっき私のことを話していた高野課長も社員たちも、みんな男だった。

「男の人って、がんばってる女の人を嫌うよね。『がんばってる女はキツい』とか、『がんばり過ぎてる女は女じゃない』なんて言ったりして」

「そうなんだよね。私もそれを言われて……」

「そんなの気にしなくていいよ。がんばれない男の人に限って、ケチをつけてくるんだから!」

うーん、すごい。由香子は社員の心理をしっかりと把握している。きっと、社員一人一人の様子をよく見ているんだろう。無能だと思っていたけれど、これはこれですごい才能なのかもしれない。

「それにね、今回採用された私のアイデアには、麻紀ちゃんの力が必要なの」

「え? 私が?」

「そう。ここ、見てくれる?」

由香子は手に持っていたプレゼン資料を広げた。その中央には、「女性リーダー1名」と書いてある。

「この部分は、麻紀ちゃんを思い浮かべて作ったんだ」

「へぇ……。これってどんなリーダーなの?」

「女性社員のがんばりが認められるように、上層部に報告するんだ」

「つまり……自分だけでなく、他の女性社員たちの『がんばり』も補佐するってこと?」

「そう! 自分ががんばってる人じゃないと、他の人のがんばりにも気づけないからね。だからこれは、麻紀ちゃんにしかできないんだ」

「私にしかできないことかぁ……」

「そうだよ! がんばってる女性はカッコいいんだってことを、男性社員たちに教えてあげて!」

由香子の真剣な瞳の力で、涙が引っ込み、こわばっていた肩から力が抜けていった。そして、なんとなくだけど、私がコンペで彼女に負けた理由がわかった気がした。

第1話 ?終了?

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この記事の著者

青井 由(あおい よし)小説家・フリー編集者・ライター

小説家。 女性の本音とときめきに触れる小説とコラムを執筆している。 モットーは「Write like talking」。 複数のWebサイトで恋愛コラムも執筆中。
男心をつかむコツを探るべく、多くの20~30代男性にリサーチを行っている。

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