連載小説『はっきり言ってよ!? 男の言い分、女の言い分?』第12話

  • 2018-7-26
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これは絶対、運命なんだと思った。だって、拓斗と同じ大学に、しかも同じ学部に入学できたんだもの。

幼なじみで、親同士も知り合いで、小学校と中学校も同じで。高校は別々になったけど、こうして大学でまた出会えるなんて、運命としか言えない。その運命っていうのは――私と拓斗が付き合うってこと。

「たっくん!」

私は拓斗をキャンパスで見つけるなり、そのごっつい背中に声をかけた。照れたような、面倒くさいような顔で振り返った拓斗に駆け寄って、私はノートを差し出した。

「これ、昨日頼まれてたノート。あと、代返もしておいたから」

「ああ、悪ぃな。ありがと」

「あと、この前たっくんが言ってた……」

「……あのさぁ、その呼び方、もうやめないか」

頭を掻く拓斗が、私の言葉を遮るように大きな声を上げた。

「オレたち、もう大学生だろ? ガキじゃないんだから、いい加減子どもっぽい呼び方はやめたいっていうか……」

「仕方ないよ。幼なじみなんだから」

「それでも、もう大人の付き合いになってもいいだろ、オレたちは」

大人の付き合い――拓斗のその言葉に、私の心はめちゃくちゃ弾んだ。おむつをしてる頃からずーっと「友達」で、私が拓斗を好きになっても変わることがなかったこの関係が、もしかしたら「恋人」になっちゃうんじゃない?

「大人の付き合い」って、そういうことだよね?

スーパーボールみたいにバンバン跳ねる気持ちを隠そうと、私は口を尖らせて不満そうな顔を作った。

「……わかった。拓斗が言うならそうするよ。じゃあ、これからなんて呼べばいいの?」

「普通に名前で呼べよ」

「わかった。じゃあ、あんたも私を名前で呼んでよ」

「ああ」

拓斗が名前で私のことを呼ぶ。「莉子」って。私も「拓斗」と呼ぶ。それって本当の恋人同士みたいだ。

 

 

「たっくん」

「りー」

物心ついたときから、私と拓斗はそう呼び合っていた。それが自然で、普通のことだった。

いつも二人で一緒に登校していたし、お互いの部屋も行き来してたし、中学のクラスメイトからは「熟年夫婦みたい」なんて言われるほど、私と拓斗は一緒にいることが当たり前だった。

そんな拓斗のことを、「友達」じゃなく、「好きな人」と思うようになったのはいつからだっただろう?

それはたぶん、中学二年の夏だったと思う。拓斗が出場した、サッカーの夏の大会。試合に負けてしまって、拓斗は人目もはばからず大泣きしていた。

そんな姿を見て、応援に行っていた私は、思わずキュンとしてしまった。いつもは元気で、バカな話しかしない拓斗が見せた、真剣な表情と涙――それに心をズキューンと射貫かれたのが、恋のはじまり。

だけどそんな恋心を、私から拓斗に告げることはなかった。お互いに部活や受験勉強で忙しくなったのもあるし、長年「友達」を続けていたのに、突然告白するのもなんだか恥ずかしかったものある。それに……私には自信があった。これだけ長い時間を一緒に過ごしてきたんだから、私から言い出さなくたって、拓斗は私を好きであるに違いないって。

高校時代は離れてしまって、それまでのように一緒にいる時間は少なくなっても、私はずっと拓斗を好きだったし、拓斗が私を好きでいてくれると信じていた。拓斗が同じ高校の女子と付き合っているなんて噂も聞いたけれど、そんなのも気にしたりはしなかった。 ――拓斗はいずれ、私の恋人になる。  そんな確信が、私を支えていた。

 

 

拓斗から「大人の付き合い」を提案された次の日、私はまた拓斗をキャンパスで見かけた。

いつものように「たっくん」と言いたいのを堪えて、昨日の拓斗からの提案を思い出し、「拓斗」と呼びかけようとした、そのときだった。

「たっくん!」

昨日までの私のように、拓斗のことを呼ぶ声。それは拓斗の横から駆け寄った、女の子のものだった。

だ、誰? その子、誰なの!?

私の戸惑いを蹴散らすように、その子は薄茶色のロングヘアをなびかせる。そして拓斗に微笑みかけていて、拓斗も明るく笑っている。

……あれ? 拓斗があんな風にさわやかに笑うことってあったかな? 昨日、私に見せた面倒くさそうな顔とは正反対だし。

いやいや、それよりも、その子は誰なの? ねぇねぇ、ねぇってば!

私がごちゃごちゃと考えているうちに、二人は腕を組んで、さっさと前へと進んでいってしまった。

「あーあ。拓斗ったら、朝からイチャイチャしてるねー」

後ろからやってきた友達の美優ちゃんが、私の肩に手を置いて首を振る。

「入学早々、拓斗が可愛い子と付き合い始めたって、評判だったものねぇ」

「そ、そうなの?」

「あれ? あんた、知らなかったの?」

美優ちゃんの言葉に、私は何も返すことができず、ひたすらうなだれていた。

……ショックだった。一番のショックは、拓斗が私以外の子と付き合っていたこと。二つ目のショックは、私がいずれ拓斗と付き合うだろうっていう自信が、崩れ去ってしまったこと。そして、私には「名前で呼べ」って言ったくせに、彼女には「たっくん」と呼ばせていたこと。

しかも、拓斗は私に彼女ができたことを言わなかった。……言ってくれればいいのに。だって、小さい頃からずーっと仲よかったじゃない!

どんなことでも、笑って話してきたじゃない!

私は拓斗を、「大切な幼なじみ」だって思ってきた。「いずれは恋人になるかもしれない大好きな人」って思ってきた。だけど拓斗は、きっとそうじゃなかったんだ。私のことなんて、「そこそこ仲のよい幼なじみ」としか思ってなかったのかもしれない。どーでもいいような存在。それが拓斗にとっての私だったんだ。

そう思うと、なんとなくだけど、拓斗の気持ちが見えてきた。拓斗は私と「大人の付き合い」なんてしたいわけじゃなかったんだ。私が呼んでいた「たっくん」って呼び名を、付き合っている彼女限定のものにしたいだけだったんだ。

「あっ、もうこんな時間! 講義がはじまっちゃうよ!」

スマホの時間表示を見て、慌てる美優ちゃんに引きずられるように、私は教室へと向かった。

第四校舎の三階にある教室では、いくつも並ぶ座席の列の真ん中ぐらいに、拓斗と彼女が座っている。美優ちゃんは迷うことなく、拓斗たちの後ろの列の座席に私を引っ張っていった。

「拓斗、おはよう」

「よぉ」

美優ちゃんの声に短く返したあとで、拓斗は私に向かって「莉子、おはよ」と言った。拓斗の隣にいる彼女は、振り返って私と美優ちゃんに軽く会釈した。私は拓斗にも彼女にも、どちらにも返事をしなかった。なのに拓斗は私へと言葉を続けた。

「そうだ、莉子。悪いけど、この次の講義に出られないから、代返頼んでいいかな?」

「……どうして出られないの?」

「どうしてって……なぁ?」

拓斗は彼女と目を合わせ、ニヤニヤと笑っている。きっとこのあと、二人でデートでもする気なんだろう。そう思うと、一気に気持ちが氷河期のように冷たくなっていく。

「お断りします」

私は自分でも驚くほどの、冷たい声を上げていた。

「えーっ! オレと莉子の仲だろ? 頼むよ、な?」

媚びるような薄ら笑いを浮かべた拓斗は、両手を合わせて、私にペコペコと頭を下げている。……ダッセェ。激ダサ。ダサさの極み。

そこには、私が好きだった拓斗はいなかった。サッカーの試合で真剣な表情を見せて、悔しさや涙を隠すことなく、キラキラ輝いていた拓斗なんて、もうどこにもいない。

「私とあなたの仲って、何でしょうね?」

私はこれまでの拓斗への思いを吐き出すように、大きなため息をついた。

「そんなことを言ってると、彼女に私との仲を誤解されますよ、池端くん」

予想外の呼び名に、驚く拓斗の顔。きょとんとした彼女の顔。その二つをちらっと見て、私はバッグから講義用のテキストを取り出し、ペラペラとめくった。

「あんたが拓斗を苗字で呼ぶなんて、珍しいね」

隣の美優ちゃんの言葉に、私は「まぁね」と言って肩をすくめた。

「これからは、大人の付き合いをしようと思って」

この記事の著者

青井 由(あおい よし)小説家・フリー編集者・ライター

小説家。 女性の本音とときめきに触れる小説とコラムを執筆している。 モットーは「Write like talking」。 複数のWebサイトで恋愛コラムも執筆中。
男心をつかむコツを探るべく、多くの20~30代男性にリサーチを行っている。

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